今回は、「海外への送金に関わるpph26➀ 〜 サービス対価」で取り上げました、海外への送金に関わるpph26と租税条約の関係について、ご説明しようと思います。
租税条約とは、同一の課税対象に対して、当該対象に関わる二つの国でそれぞれ課税される(二重課税)ことを回避する目的で締結する国際協定です。 例えば、日本の居住者が、インドネシアで所得を得た場合に、その所得に対して、日本とインドネシアの両国で課税すると二重課税になります。 これを回避するために、二国間で協定を結び、どちらの国に課税権があるかを明確にしているのです。
納税の基本的な考え方は、居住国で課税です。 なので、日本の居住者が、租税条約の締約国である他方の国でおこなった勤務に対する報酬を得た場合でも、居住国でのみ納税の義務を負います。 但し、下記のいずれかの条件に該当する場合は、他方の締約国でも納税義務が生じます。
① 報酬の受領者が、当該年を通じて合計183日を超過して、当該他方の締約国に滞在する
② 報酬が、当該他方の締約国の居住者である雇用者またはこれに代る者から支払われる
③ 報酬が、雇用者の当該他方の締約国内に有する恒久的施設または固定的施設によって負担される
基本的に、どの租税条約でも上記①〜③が条件として記載されているのですが、①の、いわゆる「183日ルール」については、条約によって「183日」の捉え方が異なります。 例えば、日米租税条約の場合、「当該課税年度において開始または終了するいずれの12カ月 (… in any twelve month period commencing or ending in the taxable year … ) の期間において……滞在する期間が合計183日を越えない」場合は、日本の居住者が米国内で行う勤務に伴う所得を得ても、日本のみで納税することになります。 これが、中国やインドネシアでは、「報酬の受領者が当該年を通じて合計183日を越えない期間(…periods not exceeding in the aggregate 183 days in the calendar year …)」となります。 大きな違いは、「いずれかの12カ月内で183日超」と「当該年内で183日超」です。 つまり、インドネシアの場合、暦上の年度末で、「183日」がリセットされるのです。 極端に言えば、年末にいったんインドネシアから出国すれば、最長182日/年、インドネシアに居住かつ就労しても、インドネシアで個人所得税を納税しなくてもよいということなのです! とはいえ、かたや一方で、インドネシアに居住の意志を示した者=インドネシアの納税者と見做す、とも税法上に明文化されているため、たとえ183日以内の滞在でも、6ヶ月以上有効な居住者証明書や就労許可証を取得している日本人は、インドネシアの納税者と見做され、所得税の納税が課せられる可能性があります。
また、上記はあくまで租税条約を適用して二重課税を回避する方法ですので、適用を受けるためには、『インドネシアの税務〜その8』でご説明したように、受益者が租税条約締約国の居住者であることを証明する「居住者証明書」が必須です。 二重課税を回避するには、パスポートは通用しないのです(パスポートは日本でも、日本国以外の居住者になる事は可能ですから)。
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